[映画24区KYOTO 2012]第1回俳優ワークショップ開催の前日。
京都みなみ会館で『時をかける少女』上映と谷口正晃監督トークセッションが催されました。
今回は、京都みなみ会館でのトークセッションに来られなかった皆さまにレポートをお届け!…ではなく、当スタッフが谷口監督にインタビューを試みた記事をお送りします。谷口監督の、立誠小学校や本プロジェクトにかける思い、演出に対するポリシー、そして何よりもプロフェッショナルな映画人としての志。そんなことが綴られますよ。本プロジェクトでこれから続くシナリオ公募、俳優ワークショップ、短編映画制作…様々な取り組みに皆さまがご参加される際の一助になりましたら幸いです。
それではどうぞ!
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「(映画の)頭だけ観てきます」
谷口正晃監督は、そう言って上映が始まった劇場の場内に入っていった。
7月20日金曜日。平日上映でしかも天候は雨という状況ながら、『時をかける少女』の再上映には多くの来場者が集まり、作品の根強い支持を再確認させられた。
谷口監督はその日の昼過ぎに京都に到着し、京都文化博物館での山中貞雄監督資料閲覧、αステーションの番組ゲスト出演やワークショップ会場である元・立誠小学校での会場打ち合わせなど、駆け足でスケジュールをこなしていた。にもかかわらず、みなみ会館でもまったく疲労の気配は窺わせず、「今日来ているお客さんの顔を見たい」と開場が始まったロビーを覗いたりしていた。上映中の場内に入っていってそのまま1時間、「頭」どころか映画のおよそ半分を経過してようやくロビーに出てきた。
自身の作品上映を喜んで笑顔になった表情も、スクリーンを凝視する厳しい表情も、等しくプロフェッショナルとしての顔だった。インタビューはそんな谷口監督のルーツの話から始まった。
――谷口監督は立誠小学校のご出身ですが、通学してらっしゃった当時と現在の雰囲気は変わっていますか?
【谷口】グラウンドの一角が自転車置き場になっていたりとか、そういうのは変わったなと思いました。でも、残っている部分に関しては当時そのままです。懐かしかったですね。
――三階の広い畳の間でお説教されたというお話も聞きました。
【谷口】自彊(じきょう)室ですね!悪いことをしたら正座させられて説教されるんです。誰かが悪さしたらクラス全員が呼び出されてね。思い出がありますね(笑)。
――そういった監督ご自身の思い出は、ワークショップを経て撮影される予定の短編映画に反映されていくのでしょうか?
【谷口】反映されてくるんじゃないですかね。(自分の記憶)そのものじゃなくても、建物自身や色々な人々の記憶があの場所に刻み込まれている。時間とか記憶とかがテーマになってくる気がしています。そういうものをあの場所に感じるんです。
――特に撮影してみたいスポットはどこでしょう?
【谷口】(現在の校舎の状況を)一階から三階まで見させてもらって、どこを切り取っても画になると思いました。理科室の怖い雰囲気なんかもいい。とても美意識を持って建てられた建造物であり、品が良く、味わい深いです。建てた人の思いを感じ取れる、素晴らしい場所だと思います。
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谷口作品の特長のひとつが、徹底されたロケハンに裏打ちされた、ロケ地そのものの魅力を引き出す演出である。この日上映された『時をかける少女』でも、花びら舞い散る桜並木を主演の仲里依紗が歩いていく名シーンがある。
――監督の作品は、場所や土地そのものの魅力にこだわって、それを引き出す演出が徹底されている印象があります。
【谷口】やっぱり、撮りたい場所に足が向くから。せっかく映画を撮るなら、魅力的な画、魅力的な場所が欲しくなる。毎回それしか求めないわけではありませんが、デジタル感覚よりは手作業や自然の入った場所に惹かれます。川のせせらぎ、とかね。映画の度に川辺の撮影が入っているから「谷口は本当に川が好きだな」と言われるんです(笑)。鴨川や高瀬川の側で育ったDNAがそうさせるのかもしれないですね。
――過去の監督作『乱反射』でも水面に光が乱反射するシーンが印象的でした。
【谷口】タイトルが“乱反射”だったので堂々とやりました(笑)。
――元・立誠小学校を舞台としてワークショップや映画撮影を行うというコンセプトは、監督からのご提案だったとか。
【谷口】実は立誠はいくつかあった候補地の一つだったんです。だったら、立誠を舞台にしてやりたいと僕から言いました。
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谷口監督は東京で既に映画24区の俳優ワークショップを何度か講師として経験している。映画の現場でプロの俳優に施す演出と、ワークショップの場で受講生に指導をすることに違いはあるのだろうか?
――監督ご自身、ワークショップ講師は幾度もされているということですが、参加者の中には、まったく演技未経験の方も来ますよね。
【谷口】そういう方々もけっこう来ますよ。
――仲里依紗さん(『時をかける少女』)、桐谷美玲さん(『乱反射』『スノーフレーク』)、三根梓さん(『シグナル 〜月曜日のルカ〜』)など、若手女優・新人女優とお仕事をされることも多い監督ですが、俳優育成ワークショップとの共通点はあるのでしょうか?
【谷口】ワークショップだからといって自分のスタイルが変わるわけではないですね。普段(撮影)現場でやっていることをやるだけです。演技論、演出論というよりも、自分の実体験で身につけたものをワークショップで出していくだけなんです。授業というよりも、映画の現場の空気を感じてほしい。
――ロジックではなく、経験を、ということでしょうか?
【谷口】そう、大切なのはあくまでも気持ちで演じられているかということです。登場人物の気持ちを自分のものにできるまで、ストレートにシンプルにひたすらやってもらう。見ていて駄目なときは「違う」と言い続ける。その繰り返しです。
――言うときは言う、と。
【谷口】僕に限らず、演出家の人はみんなそうでしょう。
――やはり演出において、役者さんとのコミュニケーションは大切ですか?
【谷口】もちろん。それがすべて!っていうくらい。どれだけ役者の良い演技を引き出せるか。引き出せたなら、後はそれを失わずに撮るだけです。
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谷口監督の一言一句から感じ取れるもの・・・。それは映画へのひたむきな真摯さと、職業人としての慎ましやかな矜持だ。谷口監督が映画監督として確固たる実力を持っているのは間違いないが、かつては演出部スタッフとして、巨匠たちの現場を渡り歩いていたという(篠原哲雄、根岸吉太郎、滝田洋二郎、黒沢清、井筒和幸、黒木和雄・・・)。その経験が監督・谷口正晃の糧であり礎となっているはずだ。今回の俳優ワークショップは、谷口監督の豊かな経験値に触れることで、受講生を大きく成長させてくれるものになるはずだ、とインタビュー中に確信した。
――ワークショップ受講生に心掛けてもらいたいことは何でしょう?
【谷口】皆さんそれぞれ映画にいろんなイメージがあると思いますが、映画っていうのは「大きな嘘」です。シナリオはフィクションだし、登場人物は現実に存在しない人達。大嘘を作り手や俳優みんなでつくのが映画だと思います。演技の醍醐味というのは、嘘から真が生まれる瞬間です。それを大事にしてほしいし、それをひたすらやってください。
――最後に、監督ご自身のワークショップへの意気込みをお聞かせください!
【谷口】僕は京都出身だけど、こっちでは仕事をする機会がそうそうありませんでした。でも、間違いなく京都にはたくさんの映画を愛する人々、映画を作っている人々がいる。今回のワークショップは彼等と出会える機会だし、良い刺激を交換しあいたいですね。今まで自分が培ってきたことを丸ごと全力投球していくので、それで面白いことができればと思っています。
谷口監督の言葉はどこまでも真っ直ぐで、筋が通っている。そこに、映画監督としての芯の強さを感じた。そんな谷口監督が宣言してくれた「全力投球」。スタッフとして身近でそれを目撃する機会に恵まれた自分は幸運だと思う。そして、その身で「全力投球」を受け止めることができる受講生の方々をうらやましく思った。
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7月21日、22日の二日間にわたって行われた、谷口正晃監督が講師の[映画24区KYOTO 2012]第1回俳優ワークショップは、谷口監督の宣言通り「全力投球」が滲み出た内容となりました。さて、果たして受講生の皆さんがそれにどう応え、何を感じたのか?ワークショップレポートで迫ります。こうご期待!
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